大丈夫、難しく考えないで。エンディングノートで一番大切なこと
私のところへ相談に来られる方の多くが、開口一番、「何から書けばいいのか分からなくて…」と、少し困ったような顔でおっしゃいます。真面目で、ご家族を大切に想う方ほど、「ちゃんと書かなければ」と気負ってしまうお気持ち、とてもよく分かります。
でも、どうか安心してください。エンディングノートで一番大切なのは、完璧に書くことではありません。
まず知っていただきたいのは、エンディングノートと遺言書は、その役割が全く異なるということです。遺言書が財産の分け方などを法的に定める「契約書」のようなものであるのに対し、エンディングノートには法的な効力がありません。
エンディングノートは、いわばご家族へ残す「自由な手紙」なのです。だから、書き方に厳密なルールや正解はありません。ご自身の言葉で、ご自身の想いを、自由に綴っていいのです。この「自由さ」こそが、エンディングノートの最大の魅力です。
【最初の一歩】まず「感謝のメッセージ」と「自分史」から書いてみませんか?
「何から書けばいいか分からない」というご質問への私の一番のアドバイスは、「まず、ご家族への感謝のメッセージから書いてみませんか?」というものです。
なぜなら、ご家族への想いを綴ることは、エンディングノートの「魂」となる部分だからです。財産目録のような事務的な情報の整理ももちろん大切ですが、それはあくまで「モノ」の整理です。その前に、ご自身の人生を振り返り、大切な人への感謝を言葉にする「心」の整理を行うことで、エンディングノートは単なる事務書類ではなく、温かい贈り物に変わります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 難しい項目はすべて飛ばして、ノートの最初のページに「家族への手紙」と題して、感謝の気持ちを数行でも書いてみてください。
なぜなら、この点は多くの方が「後でゆっくり書こう」と見落としがちで、結局、事務的な情報の羅列で終わってしまう失敗例をたくさん見てきたからです。銀行員時代は書類の正確さがゴールでしたが、今は、ご本人の気持ちが伝わることこそ本当のゴールだと考えています。この知見が、あなたの成功の助けになれば幸いです。
ご自身の人生を振り返る「自分史」を簡単に書き出してみるのもおすすめです。生まれた場所、楽しかった学生時代、夢中になった仕事、結婚、お子さんの誕生。そうした思い出を辿る中で、ご家族への感謝の気持ちも、より一層深まっていくはずです。
🎨 エンディングノートの本当の価値
💡 情報の整理の前に、心の整理から始めよう
これだけは押さえたい!エンディングノートの基本項目と書き方見本
心の準備が整ったら、少しだけ具体的な項目にも目を向けてみましょう。ただし、ここでも完璧を目指す必要はありません。「まずはこれだけ書けばOK」というポイントと、簡単な見本をご紹介しますので、書けそうなところから手をつけてみてください。
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自分について
最低限のポイント: 本籍地、マイナンバーなど、手続きで必要になりそうな基本情報。
📝 書き方見本
本籍地:東京都千代田区千代田1-1
趣味:週末の釣り、昭和歌謡を聴くこと -
医療・介護について
最低限のポイント: 延命治療を望むか望まないか、意思表示だけでもしておく。
📝 書き方見本
延命治療について:回復の見込みがない場合は、延命治療を望みません。
かかりつけ医:〇〇内科クリニック(電話番号:xxx-xxx-xxxx) -
財産について
典型的な失敗は、最初から銀行の口座番号や残高をすべて正確に書き出そうとすることです。
最低限のポイント: どの銀行に口座があるか、その存在が分かるメモを残すだけで十分です。
📝 書き方見本
預貯金:〇〇銀行(本店)、△△信用金庫(駅前支店)に口座あり。
不動産:自宅の土地と建物(名義:鈴木良雄) -
連絡先リスト
最低限のポイント: 親戚や、特に親しかった友人の連絡先。
📝 書き方見本
甥:鈴木一郎(電話番号:xxx-xxx-xxxx)
友人:田中三郎(大学の同級生)
繰り返しになりますが、これらの項目を一度にすべて埋める必要はありません。そして、エンディングノートと遺言書の違いを理解しておくことも、安心して書き進めるための重要なポイントです。
📊 ひと目でわかる!エンディングノートと遺言書の違い
| 比較項目 | エンディングノート | 遺言書 |
|---|---|---|
| 法的効力 | ない | ある |
| 形式の自由度 | 非常に高い(自由な手紙) | 低い(法律で厳格な形式が定められている) |
| 書ける内容 | 制限なし(想いや希望、情報など) | 主に財産の分け方など法律に関わること |
| 主な目的 | 家族への想いを伝え、負担を軽減する | 法的な相続手続きを円滑にする |
エンディングノートに関するよくあるご質問(FAQ)
最後に、皆さんからよくいただく質問にお答えします。
Q. エンディングノートはどこで売っていますか?
A. 書店や文房具店で市販のノートが購入できます。また、インターネットで無料のテンプレートをダウンロードして印刷したり、ご自身で普通の大学ノートに項目を書き出したりすることから始めても、全く問題ありません。
Q. 家族にはいつ見せればいいですか?
A. 「書き終えたら見せる」と気負う必要はありません。「今、こういうことを考えているんだ」と、ノートの存在を普段の会話の中で伝えておき、保管場所を共有しておくのがおすすめです。それがご家族との大切な対話のきっかけにもなります。
Q. パソコンで作ってもいいですか?
A. もちろん大丈夫です。ただし、パソコンで作成した場合は、ファイルがどこに保存してあるか、そしてパソコンを開くためのパスワードなどを、ご家族が分かるように別途メモで残しておく必要があります。
まとめ:あなたの一歩が、家族への最高の贈り物になる
エンディングノートの書き方、いかがでしたか?
大切なのは、完璧を目指さないこと。そして、ご家族を想う鈴木さんのお気持ちこそが、エン-ディングノートを書く上での一番の原動力だということです。
法的なことや財産の難しい話は、また次のステップで考えれば大丈夫です。
まずは今日の終わりに、ノートの最初の1ページを開いて、奥様への「いつもありがとう」という感謝の言葉を一行でも綴ってみてください。その小さな一歩が、ご自身の心を整理し、ご家族の未来にとって、かけがえのない宝物になるはずです。
[参考文献リスト]
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしています。
- 法務省. 「自筆証書遺言書保管制度」. https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
- 常陽銀行. 「エンディングノートの作り方とは?基本の項目やスムーズに書くためのコツを紹介」. https://www.joyobank.co.jp/woman/column/202209_01.html
- 楽天インサイト株式会社. (2017). 「終活」に関する実態調査. https://insight.rakuten.co.jp/report/20170913/
